【半導体業界知識】JASM熊本工場とは?TSMC誘致によって日本に予想される影響と共にわかりやすく解説
「TSMCが熊本へ工場建設を決定」―――このニュースは半導体業界で大きな注目を集めました。なぜなら、日本国内の半導体供給能力に加え、グローバルサプライチェーンへの影響も意味するからです。本記事では、TSMCによるJASM熊本工場への投資がどのように実現し、どのような影響が考えられるのかについてご紹介します。
1.TSMC・JASMとは
1-1.半導体ファウンドリ世界最大手“TSMC”
1-2.TSMCの子会社として誕生した“JASM”
2. JASM熊本工場新設の背景│戦略物資としての"半導体の国産シェア"の拡大を目指して
3.JASM熊本工場の生産能力とは
3-1.第1工場は月間5万5,000枚
3-2.第2工場は月間10万枚以上
4.JASM熊本工場で見込まれる影響
4-1.サプライチェーン・生産能力の確保
4-2.技術人材の確保
4-3.経済波及効果は約6.9兆円
1.TSMC・JASMとは
まずはTSMCとJASMについて、それぞれ簡単に見ていきましょう。
1-1.半導体ファウンドリ世界最大手“TSMC”
TSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)は、1987年に設立された台湾の世界最大手半導体ファウンドリ企業です。先進的なプロセス技術の開発に注力し、半導体業界におけるグローバルリーダーとしての地位を確立しています。
現行の最先端である回路線幅3nmの半導体に加え、2023年末には世界最先端となる1.4nmの半導体開発を進めていることを明らかにするなど、高性能な半導体ソリューションを提供することで文字通り業界を牽引する存在です。
1-2.TSMCの子会社として誕生した“JASM”
JASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing株式会社の略称)は、世界的ファウンドリTSMCの子会社として、シリコンアイランドとも称される九州・熊本県菊池郡菊陽町に設立されました。ソニーセミコンダクタソリューションズやデンソーも少数株主として出資。国内における半導体製造能力の向上に、大きな期待が寄せられている存在です。
2.JASM熊本工場新設の背景|戦略物資としての“半導体の国産シェア”の拡大を目指して
JASM熊本工場の実現背景には、半導体事業の再興を目指した日本の国を挙げての取り組みが挙げられます。
世界的パンデミックの影響に伴うIT需要の急激な高まりなどから、2021年に顕在化した“半導体不足”。当時に比べると状況は改善傾向にあるものの、AI技術の急激な発展もあり、高性能が求められる先端ロジック半導体の供給力確保は非常に重要な課題となっています。
しかし、日本は40nm未満の先端ロジック半導体をつくる技術力がないのが実情であり、先端ロジック分野では“世界から10年以上遅れている”ともされています。
※令和6年3月『半導体・デジタル産業戦略の現状と今後』 より抜粋
こうした中で2021年、日本は「半導体・デジタル産業戦略」を策定。半導体事業に対して、国家事業として取り組む姿勢をとりました。その一手として、数nmという最先端のロジック半導体製造技術を持つ世界最大手の半導体ファウンドリTSMCの日本誘致が実現しました。
半導体市場においては、中長期的な視点のもと、将来的な需要を見越した先行投資が重要です。その市場規模は、2030年には1兆ドル規模となる見通しも あります。こうした需要に応えるべく、TSMC投資の下で先端半導体の生産設備として建設されているのがJASM熊本工場です。
3.JASM熊本工場の生産能力とは
5G促進法・NEDO法といった法律の改正なども通じて、日本政府が1兆円超の支援を実施して建設されているJASM熊本工場の生産能力について見ていきましょう。
3-1.第1工場は月間5万5,000枚
第1工場は、2024年末に生産開始予定。22/28nm・12/16nmプロセス技術において、月間5万5,000枚の生産が見込まれています。
※令和6年3月『半導体・デジタル産業戦略の現状と今後』 より抜粋
3-2.第2工場は月間10万枚以上
第1工場に続き、すでに追加出資による第2工場の建設も発表されており、第2工場は2027年末までに生産開始を予定。第一工場の22/28nm・12/16nmに加え、40nm・6/7nmプロセス技術にも対応。AIや自動運転にも使用される先端分野のロジック半導体だけでなく、国内需要も見込んだ生産体制となっています。生産能力は、月間10万枚以上が見込まれています。
4.JASM熊本工場で見込まれる影響
日本も国を挙げて注力するJASM熊本工場。工場新設によって単純な生産能力はもちろん、それ以外の効果も見込まれています。
4-1.サプライチェーン・生産能力の確保
JASMは、下記の内容を追求するとされています。
- ウエハーを主に日本のサプライヤーから調達すること
- 間接材料もローカル・サプライチェーン(※)から50%以上購入すること
- 飲食・セキュリティ・オフィス機器・清掃といったサービスについても、最大限地元の企業のサービスを利用すること
- 材料や部品などの十分な在庫確保も計画。緊急時にはTSMCも協力すること
※ローカル・サプライチェーン:日本において製造・加工等の工程を実施する日本に立地する法人(外資企業を含む)からの調達を指す。
国内の関連企業との連携も意識されるため、工場としての半導体生産能力だけでなく、関連企業とのシナジー創出にもつながります。
4-2.技術人材の確保
必要人材約1,700名の内訳としては、台湾から約500名、国内からは学歴を問わず約1,200名を積極雇用する予定とされています。
九州人材育成等コンソーシアム等と協力しながら、様々な人材開発プログラムなどを通じて、大学・高専等との長期的な協力関係の構築。さらには、 九州大学における半導体カリキュラムの開始、半導体関連分野の勉強に向けたサポートにも取り組んでいくとされています。これらによって、技術人材の育成・定着が見込まれています。
4-3.経済波及効果は約6.9兆円
2022年から10年間の経済波及効果は、約6.9兆円と試算されています(JASMの他、ソニー・三菱電機等の投資含む)。約90社が熊本県内に拠点施設・工場増設が見込まれており、実際にJASM進出以降に熊本へ進出または設備拡張を公表した企業は47社とされています(2023年11月時点)。また、雇用の創出についても全体で約10,700人(JASM直接雇用1,700人含む)が見込まれることから、経済効果は半導体の輸出入にとどまりません。
まとめ>
世界最大手ファウンドリTSMCの誘致、そしてJASM熊本工場への投資は、日本国内だけでなく“世界と日本”にも波及する大きな影響を及ぼすことが想定されます。それに続くように国内でも活発化する半導体市場。今後もその動向から目が離せません。
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