【現役エンジニアに聞く半導体最前線】「チップレット」の特徴と将来性を解説

半導体業界で今注目を浴びているキーワードの1つ「チップレット」。そんなチップレットをテーマに、具体的にはどのような技術なのか、また今後どのような発展が予想されるのかについて、本記事ではご紹介します。

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目次

 

話者紹介

高木 昭彦 氏

ASICエンジニアとして、 パッケージ、組立などの後工程を専門分野として20年以上経験し、現在は当社に在籍。

 

“中工程”とも呼ばれる「チップレット」とは

―――最近「チップレット」というワードをよく目にするようになりました。早速ですが、その概要を教えていただけますか?

**高木さん**

はい。「チップレット」は、複数のチップを並べたり重ねたりしてあたかも1つのチップに見立てたものです。広い意味で捉えると、複数のチップを組み合わせているのでMCP(マルチ・チップ・パッケージ)ともいえます。ただ最近では、FOWLP(ファン・アウト・WLP)の組立技術で複数チップ並べて固定し、チップ間を相互接続して、まるで1チップのSoC(System on Chip)として扱っているパッケージングを指すことが多いですね。 

 

―――複数チップを組み合わせて1チップと見なす。それはウエハの製造ですか、それともパッケージですか。

**高木さん**

そうですね。実際に、チップレット製造は「前工程」なのか、それとも「後工程」なのか、意見が分かれる部分だと感じています。ファブとOSATの両方のメーカーから様々なチップレット技術の提案がされており、だからこそチップレットは、前工程と後工程のちょうど間に存在する工程として、「中工程」という新しい見方もされています。

 

どのようにしてチップレット技術は生まれたのか

―――では「チップレット」は新たに誕生したばかりの技術なのですね。

**高木さん**

複数チップを1チップとして扱う構造面から見たチップレットはここ数年の新しい技術ですが、先ほど紹介した機能を実現するために複数チップを組み合わせるMCPの技術自体は、もう30年以上前からある技術で、その時々の組立技術で作り続けられてきたんですよ。実際に、このマルチチップの技術はシングルチップの課題を解決するために、そしてシングルチップはマルチチップ製品の課題を解決するために、何度も交互に注目されてきました。

 

―――そのような経緯があるのですね。なぜシングルチップの技術とマルチチップの技術が交互に注目されてきたのでしょうか?

**高木さん**

その鍵となるのは、技術を採用する上で検討される3つの視点:「開発スピード」・「コスト」・「信頼性」のうち、その時にどれが最も必要とされていたかという視点です。

シングルチップは、高い微細化・集積化技術によって、製品コストと信頼性を担保しています。しかし全ての回路をシングルチップに搭載するには高額な開発費と長い開発期間が必要で、製品の市場リリースまでに時間がかかります。その点でマルチチップは、新規開発するチップは必要な部分に絞りこみ、技術が確立された既存チップと組み合わせることで、開発費を抑えつつスピーディーな市場リリースが叶えられるんです。

マルチチップで製造された製品の市場が時間とともに拡大して、同時に半導体のプロセスに対して各種回路開発が進んでくると、低コストかつ大量生産のニーズが高まりシングルチップが注目されるんです。そしてまた、新しいコンセプトの商品を早期に市場にリリースするニーズが高まるとマルチチップが注目されるんです。…といったサイクルで交互に注目されてきたわけです。

そして、マルチチップの特性を持つ「チップレット」は、この技術革新の延長線上で自然と生まれてきた「開発スピード重視」の技術といえます。

それでも昨今の微細プロセスではアナログ回路の実現が難しいことから、チップレット生涯生産を続ける製品も増えています。

 

チップレットのメリットとデメリット

―――それでは次に、チップレットにはどのような技術的メリットとデメリットがあるかを教えてください。

**高木さん**

わかりました。チップレットのメリットには、主に下記の4点が挙げられます。

メリット

内容

開発スピードの早さ

信頼性の担保された既存チップを活用することで、設計や検証の時間を短縮できる。

歩留まりの向上

信頼性の担保されたチップであること、そして複数チップで1つのチップを構成するため、各々のチップサイズが不用意に大きくならないので、素材不良にも当たりにくい。

3次元構造

複数のチップを組み合わせる形式を取るため、平面ではなく立体を活用したチップ構成が可能。

ヘテロジニアスインテグレーション

異なるプロセスノードを一緒に使用できる。

 

この中でも現在注目されているのは、ヘテロジニアスインテグレーションです。シングルチップの場合、1つのチップで微細化・集積化を図る必要があります。そのため、アナログに適したプロセスにするのか、デジタルに適したプロセスにするのか、どちらのプロセスを採用するかをはじめから決めておく必要があるんです。

しかしチップレットの場合は、アナログに最適なプロセスで作ったチップとデジタルに最適なプロセスで作ったチップを一緒に組み込んで使用できます。つまり、アナログの高信頼性と、デジタルの現段階での微細化技術の両方を実現できるんです。これは大きなメリットだといえます。

 

―――複数のチップを使用して1つと見なすからこそ、複数のチップのシナジーを生かすことができる点がチップレットの優れている点なのですね。では、デメリットは何かあるのでしょうか?

**高木さん**

そうですね。やはりデメリットも存在します。チップレットのデメリットも4点挙げましょう。

デメリット

内容

テスト、組み立ての技術ハードルの高さ

KGD供給/調達の課題。1つで不良チップがあると組み合わせた全ての良品チップが無駄になる。

コストの高さ

組み立てもシングルチップに比べて複雑なため、組み立てコストが増加する。

サイズの大きさ

シングルチップに比べるとやはり複数個で構成している分、サイズが大きくなりがち。

消費電力の増加

サイズが大きくなる分、消費電力も増加する。

KGD:Known Good Die、良品が保証されたチップ

いずれも複数のチップで1チップが構成されるからこそ、起こりうるデメリットといえます。たとえばコストの高さは、複数のチップを使用するためその分のコストがかかってしまうことを指します。しかしこれは、チップレットを使用することによる、開発スピードとのトレードオフにあたる部分といえるでしょう。

技術にはそれぞれ得意・不得意があるため、何を重要視してその技術を採用するかを見極めることが重要です。

 

今後どのように展開していく?

―――ここまで、チップレットの技術的特徴や誕生経緯、そしてメリット・デメリットを見てきました。まだ誕生したばかりの技術とのことですが、今後チップレットはさらに発展していくのでしょうか?

**高木さん**

そうですね。その可能性はあるのではないかなと。というのも、先ほど「シングルチップ技術とマルチチップ技術は交互に注目されてきた」というお話をしましたが、近年は製品のライフサイクルが短くなりマルチチップの方が注目される期間が徐々に長くなってきているように感じているからです。

スマートフォンの進化スピードなんかを見るとわかりやすいかもしれません。今ものすごいスピードで新しい商品がリリースされていますよね。このような市場競争に置いていかれないように、半導体製品も開発スピードが重要視されているので、現状の使えるパーツを流用しつつ最新プロセスとの融合が図れるチップレットの採用が拡大していくかもしれない、と個人的には感じています。

また、チップレットは作成する場合に高い技術レベルもさることながら、新旧技術の応用が求められます。現在は半導体業界でも各分野のリーダーたちが中心です。しかし様々な技術の応用力という点で日本の町工場は負けていません。世界レベルの半導体企業が日本に誘致されていることも踏まえ、チップレットの分野で日本が強みを生かして活躍する可能性もあるはずです。

 

まとめ>

絶え間なく進化を続ける半導体技術。その流れの中でチップレットは、「中工程」という新たな概念の提案にもつながる、新たな一手として誕生したことを本記事ではご紹介しました。JFE商事エレクトロニクスでも、パートナー企業と共に「チップレット」に関するご相談を承っています。ご興味を持たれた方は、下記「お問い合わせ」より気軽にお問い合わせください。 

 

 

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