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【半導体業界知識】なぜ“日の丸半導体”は凋落した?背景をわかりやすく解説

作成者: JFE商事エレクトロニクス|Apr 23, 2024 2:54:25 AM

今では聞かない日がないほどに一般化した半導体。現在は米国や韓国などがメインプレイヤーとして躍動していますが、かつては日本の“日の丸半導体”と呼ばれる企業たちが世界的なシェアを誇っていた時代もありました。そんな日本がなぜ凋落してしまったのか。本記事ではその原因を歴史的な背景も交えてご紹介します。

目次

1.世界を牽引した“日の丸半導体”時代から一転
2.日本の半導体が凋落した理由
2-1.日米貿易摩擦
 2-2.水平分業化への乗り遅れ
 2-3.投資不足
3.“日の丸半導体”復活の可能性

 

1.世界を牽引した“日の丸半導体”時代から一転

“日の丸半導体”として日本の半導体が世界で圧倒的シェアを誇っていたのは1980年代頃のことでした。

1973年に米国で半導体メモリDRAMが誕生したのち、日本では国家プロジェクトとして官民合同で「超LSI技術研究組合」を発足することに。高性能なDRAM開発を目指して研究を続け、ついに日本製のDRAMが世界シェア1位を獲得しました。 

半導体市場全体の半数以上、DRAMに限定すれば70%以上のシェアを誇るなど、圧倒的1位を誇っていた日本。しかし、現在そのシェアは10%を切るまでに激減することになったのです。

 

2.日本の半導体が凋落した理由

 世界の半導体売上高TOP10を見ると、1992年には日本勢が6社を占めていました。しかし2019年には日本企業がキオクシア1社のみとなり、2023年時点では0社。対照的に米国はインテルを筆頭に3社から5社と増加し、韓国もサムスン電子とSKハイニックスが躍進。中でもサムスン電子は 2021年に一時インテルを抜き世界1位に躍り出るまでになりました。

参考:経済産業省「半導体戦略(概略)2021年6月」資料

参考:2023年の半導体企業売上高ランキングトップ20(Omdia 2024)

このような世界の躍進、そして日本の半導体メーカーの凋落はなぜ起こったのか。その主な要因には政治的な背景や、産業構造の変化に対する日本企業のあり方などが挙げられます。

 

2-1.日米貿易摩擦

まずひとつの要因として、日米貿易摩擦が挙げられます。1986年に締結された「日米半導体協定」。その中身は、日本市場における当時10%ほどだった海外製半導体シェアを、20%程度まで引き上げることなどが記されたものでした。これにより、日本の半導体開発の勢いは衰え、競争力が削がれる一因となりました。

 

2-2.水平分業化への乗り遅れ

ビジネスモデルの変化も要因といえます。当時の国内企業は、半導体の設計から製造などを一貫しておこなう垂直統合型のビジネスモデル(IDM)でした。しかし、海外では設計に特化したファブレス、製造に特化したファウンドリなどが登場し、水平分業型が主流に。日本勢はこの流れについていくことができず、得意分野の確立に遅れをとってしまいました。

 

2-3.投資不足

大胆な投資不足も要因に挙げられます。当時の日本企業は“新技術の開発”よりも“品質向上”を重視し、半導体部署は電機メーカーの一部門に過ぎなかったこともあってか投資に積極的ではありませんでした。そんな中、海外企業は国を挙げて“新技術の開発”に大規模投資を実施し、急成長を遂げます。しかし、この状況を受けても業界再編などの反応は鈍く、結果としてデファクトスタンダードとなる製品を残すことができませんでした。

 以上のように、外的な負荷があったことや、猛スピードで変化を続ける半導体業界の進歩に取り残されてしまったことが、当時の“日の丸半導体”凋落の大きな要因とされています。

 

3.“日の丸半導体”復活の可能性

結果的として全体の半導体シェアを大きく落としてしまった日本ですが、すべての分野において退場してしまったわけではありません。半導体の製造装置や材料業界など、一部においては今もなお世界の競合企業の中で健闘しています。

記事を読む☞ 世界で健闘し続ける日本の半導体製造装置メーカー・材料メーカーとは)

 またかつての失敗の教訓を活かし、日本も国を挙げて“日の丸半導体”の復活を目指して動きが活発化してきています。

中でもここ最近の大きなニュースとしては、世界最大のファウンドリであるTSMCの熊本への誘致、2024年後半の量産開始を目標にしています。

また、北海道千歳には官民一体となって5兆円もの投資をすることで、日系のファウンドリであるラピダスを設立しました。同社は最先端である2nmプロセスのウェハーを2027年に量産開始を計画しており、いずれは更に先の1nmロジック半導体の生産も視野に入れています。
さらには前工程(設計、ウェーハ工程)にとどまることなく、チップレットや3Dパッケージといった最先端の後工程の開発も行うことを目標としており、大きな注目を浴びています。

(記事を読む☞【現役エンジニアに聞く半導体最前線】「チップレット」の特徴と将来性を解説

 長年に渡って磨かれ続けてきた半導体技術と、それに端を発する新たな勢いが、“日の丸半導体”復活の可能性を秘めているといえるでしょう。

 

まとめ>

かつては“日の丸半導体”として、世界トップを走っていた日本の半導体。現在は当時に比べると世界に大きく溝を空けられているのが実情です。しかし、世界トップのファウンドリTSMCの日本進出やラビダスの設立など、日本は今大きな変化の時を迎えているのかもしれません。

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