JFE商事エレクトロニクスでは、世界トップクラスのファウンドリー大手「グローバルファウンドリーズ
(GF:Global Foundries)」のプラチナ・パートナーとして、豊富な経験を持つエンジニアたちと共にファウンドリー事業を展開しています。
本記事では、当社在籍のGF出身エンジニアへのインタビューを通じて、身近で私たちの生活を支えている高耐圧半導体についてご紹介します。
話者紹介
沖田 佳久 氏
フィールド・アプリケーション・エンジニア。
沖電気、チャータード・セミコンダクタ(後にグローバルファウンドリーズとして統合)を経て、
現在は当社に在籍。
―――さっそくですが、“高耐圧半導体”とはどのような半導体を指すのか教えてください。
**沖田さん**
“高耐圧半導体(HighVoltage)”は、文字通り高い電圧に耐えられる半導体です。ひとくちに高耐圧半導体と言っても、10V程度から数千Vクラスのものまで、その構造や材質も含め非常に多くの種類があります。
ここでは、LSIとして10Vから数百V程度までの電圧をハンドリングできる技術を解説します。
アプリケーションについては、電圧のモニタリングであったり、モーターのコントロールであったり、意外に思われるかもしれませんが実は身近な生活の中で、多様な使われ方をしています。
―――具体的にはどのような活用がされているのでしょうか?
**沖田さん**
身近なところでいえば、スマートフォンやPCの電池残量を表示させる機能。これは、高耐圧半導体によって電圧をモニタリングすることで実現しています。また、車に使われている小型モーターを制御しているのも、有機ELなどのディスプレイパネルを駆動(画素を点灯)させているのも、実は高耐圧半導体の機能なんですよ。
たとえばテレビ等のディスプレイは、ピクセル(画素)が一つひとつ発光することで映像が表現されていることはご存知かと思います。そのディスプレイに映し出される映像は、ディスプレイ・ドライバIC(DDIC)の中で、高耐圧半導体が電圧の出力を調整(レベルシフト)することで発色しているんです。
―――意外にも身近なところで高耐圧半導体は活躍しているのですね。では次に、高耐圧半導体の仕組みを教えてください。
**沖田さん**
一般的に高耐圧半導体は、“BCD”と呼ばれるBipolar・CMOS・DMOSの3つのトランジスタを、1つの基盤上に構築する技術によって成り立っています。
3つのトランジスタにおけるそれぞれの簡易的な役割については下記の通りです。
位置 |
左 |
中央 |
右 |
トランジスタの種類 |
Bipolar |
CMOS |
DMOS |
|
大電流の出力、基準電圧の生成を担う。 |
論理回路。制御のための論理演算を行う。 |
駆動回路。電圧のハンドリング、出力を担う。 |
そしてこの中でも、“高耐圧の要”といえる機能を担っているのが「DMOS」です。
―――DMOSが“高耐圧の要”とはどういう意味ですか?
**沖田さん**
耐圧は、“距離”によって実現されます。簡単にいえば、距離があればあるほど、電圧を支える(耐える)ことができるんです。そしてDMOSは、電圧を支えるためにBipolar・CMOSとは異なった“電圧を支えるための設計”がされているんです。
実際に、構造の違いを見てみましょう。
まず一般的なMOSトランジスタは、ソースとドレインの間にゲートが配置されており、ソース・ドレインの両方がゲートの間近に配置されたような形をとっています。
対してDMOSは、電圧がかかるドレインとゲートを離して配置し、さらにゲート-ドレイン間の間にドレインよりも濃度の低い層を挟むことで、電界強度を緩和させる形となっています。DMOSはもともと“Double Diffusion MOS”と呼ばれており、文字通り2重で電圧を分散されている様子がよくわかるかと思います。この形式のものは「EDMOS(Extended Drain MOS)」と呼ばれ、10V程度までの耐圧半導体としてよく用いられています。
そしてEDMOSに改良を加え、より高耐圧とするためにゲート下のチャネルとドレインの間に酸化膜(STI:Shallow trench isolation)を埋め込んだ形式のものを「LDMOS(Laterally Doule-diffused MOS)」と呼びます。
見た目上のゲート-ドレイン間の距離は近くなっているように見えますが、STIを挟むことで立体的に距離を稼いでいます。これにより、素子の大きさを効率化しながらEDMOSよりも高い20V以上の耐圧を可能とする構造となっているのがLDMOSです。
このように、一般的なMOSトランジスタと異なる構造で、ゲート-ドレイン間の距離を離すことによって“高耐圧”を実現しているのがDMOSです。
―――高耐圧半導体の仕組みはわかりました。では最後に高耐圧半導体の課題を教えてください。
**沖田さん**
先ほどご紹介したように、高い電圧に耐えるためには距離が必要になり、素子が大型化してしまいます。ここでご紹介している半導体は、単機能のトランジスタではなく制御回路と高耐圧素子を集積したLSIですので、いかにしてチップサイズを小さくするかが課題となります。そこで、LDMOSのような立体を意識した構造とすることで、高耐圧素子の大型化を抑制しています。
もうひとつの課題は、“オン抵抗の低減”です。オン抵抗は大きいほど熱を生じやすく、オン抵抗の値の大きさは電力損失が大きいことを意味します。電池監視やモーター制御に用いる半導体が電力を損失してはいけませんので、これをいかに小さくするかが高耐圧半導体の課題であり、逆に言えば低いオン抵抗を実現できる技術は競争力でもあります。
―――高い電圧に耐えられることと高集積化を両立できるかが高耐圧半導体の課題なのですね。
**沖田さん**
そうです。こうした高い電圧をハンドリングできる高耐圧半導体がないと“電池を監視する”・“モーターを回す”といったことができません。その意味では、非常に生活に密接した半導体といえます。また、身近な半導体だからこそ、性能とコストの両立という課題を解決すべく開発をしているんです。
たとえばグローバルファウンドリーズでは、BCDのBipolar部分の製造工程を簡易化することで、通常のBCDよりもコスト低減が可能な「BCDLite®️」というプロセスを開発・提供しています。
本記事では、高耐圧半導体の基礎知識や仕組み、そして特徴から現在注目されている課題についてご紹介しました。
JFE商事エレクトロニクスは、グローバルファウンドリーズ(GF)のプラチナム・パートナーとしてファウンドリー事業を展開しています。経験豊富な専門エンジニアが在籍しているからこそ、技術サポートから試作、量産までも対応可能です。
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