JFE商事エレクトロニクスでは、世界3位* のファウンドリー大手「グローバルファウンドリーズ
(GF:Global Foundries)」のプラチナ・パートナーとして、豊富な経験を持つエンジニアたちと共にファウンドリー事業を展開しています。本記事では、当社在籍のGF出身エンジニアへのインタビューを通じて、FD-SOIおよびSiGe-HBT技術と関連するGF製品についてご紹介します。
話者紹介
沖田 佳久 氏
フィールド・アプリケーション・エンジニア。
沖電気、チャータード・セミコンダクタ(後にグローバルファウンドリーズとして統合)を経て、
現在は当社に在籍。
ーーー早速ですが、グローバルファウンドリーズ製品の特長を教えてください。
**沖田さん**
一言でいえば、“同一テクノロジーノードにおける速度面での性能の高さ”です。
LSIの高性能化(高速化)を目指す一般的な技術トレンドでいえば、微細化と集積化があります。従来の単純な微細化(テクノロジーノード/線幅の縮小)だけで集積度と性能の向上は限界を迎え、トランジスタの構造を変えることによる集積度と性能の向上トレンドを維持するアプローチがとられてきました。
しかしこうしたトレンドとは異なり、グローバルファウンドリーズは技術改良を重ねることで、同一テクノロジーノードで高性能な製品を生み出しているんです。
ーーー主な技術トレンドとGF技術を並べたのがこの図ですね。見方を教えてください。
**沖田さん**
白色の矢印が主な技術トレンドで、オレンジ色の矢印がGFの技術です。FinFETなどは、従来のプレーナ型から構造を変えることで高性能化を図っているのが特徴的です。
これらに対して、プレーナ型を改良することで性能の向上を目指したのがSOI技術です。さらに、もともと原理的にFETよりも高速動作が可能だったバイポーラをさらに性能向上させたのがSiGe-HBTです。
グローバルファウンドリーズではこれらの技術において改良を重ね、市場で求められている高性能なトランジスタを開発・提供しています。
ーーートレンドとして微細化の流れもありつつ、グローバルファウンドリーズは独自の性能の進化を歩んできたんですね。それでは、今回解説していただくFD-SOIおよびSiGe-HBTの技術について、まずは基本的な特長から教えてください。
**沖田さん**
わかりました。では、FD-SOIから見ていきましょう。
FD-SOI(完全空乏型 シリコン・オン・インシュレータ)はプレーナ型のトランジスタで、MOSトランジスタを文字通り絶縁体(インシュレータ)の上に形成したものです。
FD-SOIは、絶縁体によって接合容量を小さくすることで信号の遅延を小さくできます。また、接合リークも極めて小さくできるため、消費電力も小さくできます。
ーーー信号遅延の縮小による「応答の速さ」と、接合リークの極小化による「低消費電力」がFD-SOIの特長ということですね。
**沖田さん**
そうです。もう少し詳しくご説明します。
(応答速度について)
MOSFETで電荷が流れるチャネルの入口となるソースには接合容量というものが存在します。
接合容量は電荷を蓄えるため、水路で例えると入口に桝が付いているような状態です。
MOSFETがONする際には接合容量が充電されてからチャネルに電荷が流れ始め、OFFする際には接合容量が放電しきると電荷の流れが止まります。
水路で例えると、水が桝に溜まってから水路に流れはじめ、桝に溜まった水が無くなったら水路の水も止まるということになります。
この、充電時間(水が溜まる時間)と放電時間(水が抜けきるまでの時間)が待ち時間となってこれが信号の遅れとなります。FD-SOIでは、バルク型に比べて接合容量が極めて小さいため応答が極めて速くなります。
(消費電力について)
バルク型のMOSFETは全てシリコンでできているため、少し乱暴な例え方をすると上で述べた水路が「土を固めた」ようなものになっていて、わずかながら水が地中へと漏れて行きます。
そのため水路の出口で得たい水量に対して漏れ分を追加した量を入口から投入する必要があります。
一方、FD-SOIは(再び乱暴な例え方をすると)水路がガラスでコーティングされたようになっているため地中への漏れが無く、出口で得たい水量だけを入口へ投入すればよくなります。
この効率の差が消費電力の差となり、FD-SOIではバルクよりも消費電力を大きく削減することが可能となります。
このように、絶縁体によって“高速化”と“低消費電力”を実現したのが、FD-SOIです。
ーーーでは次に、SiGe-HBTの特長を教えてください。
**沖田さん**
今回はバイポーラ型のシリコンゲルマニウム(SiGe-HBT* )について言及します。SiGe-HBTは、高速(高周波)で動作することが大きな特長です。
現在、トランジスタの主流となっているMOSFETがドレインからソースへ流れる電荷をゲートからの電界で制御しているのに対して、バイポーラはエミッタからコレクタへ流れる電荷をベースで直接制御しています。そのため、間接的ではない分、MOSトランジスタよりも応答が極めて速いという特長を持ちます。
*HBT(Heterojunction Bipolar Transistor):ヘテロ接合バイポーラトランジスタ
ーーーそのほかにもMOSトランジスタとの違いはありますか?
**沖田さん**
SiGe-HBTは、バイポーラのベース層にゲルマニウムを添加しています。
上で述べたように、バイポーラはエミッタからコレクタへ流れる電荷を途中にあるベースで直接制御します。
そのため、バイポーラの速度性能を上げるにはベース抵抗を下げたいのですが、その手段として単にベース濃度を上げてしまうと電流増幅率が低下するというジレンマがあります。
SiGe-HBTはベースにゲルマニウムを添加したもので、それにより電流増幅率を下げずにベース濃度を上げることができ、結果的にバイポーラの速度性能も向上させることができます。
さらに、ゲルマニウム濃度がエミッタ側からコレクタ側に向け徐々に高くなるような傾斜を付けることで、電荷(電子)にとっては伝導帯の準位がエミッタ側からコレクタ側へ向かって低くなる形となって、電界効果によりエミッタからコレクタへ走行する電荷を加速させ、超高速性能を実現しています。
ーーーFD-SOIとSiGe-HBTについて、基本的な特長はわかりました。これらについて、グローバルファウンドリーズではどのような製品がありますか?
**沖田さん**
まずグローバルファウンドリーズのFD-SOI技術で注目されている製品のひとつは、「22FDX」です。22FDXは、22ナノメートル技術によってチップを小さくできることはもちろん、高速(高周波)でありながら消費電力の低減も実現できることが大きな特長です。
またSiGe-HBT技術を活用した製品には、22FDXと同じく高速(高周波)で、なおかつ駆動能力が高い「SiGe 9HP」があります。駆動能力の高さは、たとえば電波を遠くまで飛ばす場合などに重要な役割を果たします。また、ほかにも「8XP」や「8HP」など複数存在するため、用途に合わせて選択するとよいでしょう。
ーーーそれぞれの製品は、具体的にどのような活用がされていますか?
**沖田さん**
22FDXを含むSOIテクノロジーと9HPを含むSiGe-HBTテクノロジーは、身近なところでいえば携帯電話やスマートフォンといったモバイルデバイスと、そこに電波を供給している基地局といった無線通信での活用実績があります。
たとえばSOIは、携帯端末向けのFEM(フロントエンドモジュール)として携帯電話等のアンテナ付近のパワーアンプに使用されます。現在普及している周波数は6GHz程度ですが、SOIはさらに高周波の5Gのミリ波(28GHz)に対応しているので、基地局から離れていてもノイズや遅延は少なく、高速通信が可能です。また、バッテリー持続性の観点からも優れているため、モバイル端末に向いているんです。
それに対してSiGe-HBTは、高周波かつ高い駆動能力によって電波を遠くまで飛ばせるため、携帯電話等に電波を供給する基地局側で活用されています。
このように、無線通信というひとつのシーンを切り取っても幅広い範囲をカバーできる豊富なラインナップがグローバルファウンドリーズには存在し、他にもさまざまなレーダーでの活用実績もあります。
ーーーグローバルファウンドリーズ製品は、性能を高めることにフォーカスしてきたからこそ、多くのお客様に選ばれているのですね。
**沖田さん**
冒頭でお話ししたように、一般的な技術トレンドは微細化や集積化です。これは、ラピダスが量産を目指しているGAA-FETや、CFETなどが新たに誕生してきていることからも明らかです。
しかしグローバルファウンドリーズでは、微細化や高集積化ではない高性能化すなわち高付加価値化できる技術を持っています。だからこそ、特定の分野における最適化や、既存の枠組みを超えたイノベーションによって、グローバルファウンドリーズは今後も高度な技術要求に答えられるファウンドリとして技術提供ができると考えます。
本記事では、独自の強みを持つグローバルファウンドリーズの製品について、FD-SOIとSiGeを例にご紹介しました。
JFE商事エレクトロニクスは、グローバルファウンドリーズ(GF)のプラチナパートナーとしてファウンドリー事業を展開しています。経験豊富な専門エンジニアが在籍しているからこそ、技術サポートから試作、量産までも対応可能です。
「まずは対応可能かどうか確認したい」という方も、「製品の実現性について相談したい」という方も、ぜひ下記「お問い合わせ」より気軽にお問い合わせください。